大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(く)57号 決定

少年 H子(昭二一・五・三一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

申立人抗告理由は本件記録添付の抗告申立書記載のとおりであつて、その要旨は、

申立人は少年H子の法定代理人母であるが、少年は昭和三十六年五月一六日東京家庭裁判所において、虞犯保護事件について初等少年院に送致する旨の決定を受けたのである。しかしながら、少年が家に落着かなかつたり、怠学、不良交友などを続けていたことは、家庭の環境が悪かつたからだと思う。それで自分としては二、三ヵ月どこか環境のよいところで教育してもらいたいと思つていたので、少年院に送られるとは想像もしていなかつた。少年も決定の言渡しを受けたとき、もう二度と親の言いつけを守らなかつたり、家出したりは致しませんと誓つた。少年の処遇については、申立人の夫の姉A子がいて、少年をしつかり補導したいといつて来ているので、そこにでも少年を預ければ、必らず更生も期待できると思う。それ故原決定を取り消されたく抗告した次第である。

というのである。

よつて審案するに、本件記録及び関係調査記録を検討してみると、少年は原決定説示のごとく昭和三十六年二月二日原裁判所において虞犯保護事件につき審判の結果台東児童相談所長に送致する旨の決定を受けて後、帰宅通学していたが、一月余で友人に誘われて家出したものであつて、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当の理由がなく家庭に寄り附かず、かつ犯罪性のある人と交際しいかがわしい場所に出入し、その性格及び環境に照らして、将来罪を犯すおそれがあるものと認められる。しかして調査資料及び鑑別の結果に顕われた少年の生活史、環境、知能及び性格などに照らしてみると、在宅保護は困難であつて、申立人のいうようにA子方に預けることも、同人の家庭裁判所調査官に対する陳述に徴すれば適当ではないとみられ、この際は少年を相当期間収容保護の上修学と秩序ある生活によつて健全な育成を計る必要あるものと認められる。従つて少年を初等少年院に送致する旨の原決定はまことに適切であつて、法令の違反、重大な事実の誤認又は著しく不当な処分であるとみるべき跡は存しない。であるからこれが取消しを求める抗告は理由ないものである。

よつて少年法第三三条第一項に則つて本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 堀義次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例